日本政府が仮想通貨ETFを解禁したらどうなる?
背景:日本のETFと暗号資産規制の現状(2026.01)
現時点で日本は仮想通貨(暗号資産)現物ETFを一切認可しておらず、暗号資産の投資収益には重い税負担がかかっている。雑所得として扱われ、最高税率は55%に達する。このため、多くの日本投資家が暗号資産の頻繁な取引をためらい、機関投資家も暗号資産を規制の枠内で組み込む手段に欠けている。
しかし、規制環境には大きな転換が胎動している。金融庁(FSA)の計画によれば、早ければ2028年にも法改正により暗号資産をETFの投資対象に組み込み、暗号資産の収益課税を20%の申告分離課税(株と同様の単一低税率)に改める可能性がある。こうした一連の改革が揃って実現すれば、日本の暗号資産市場にとって大きな転換点となる。投資のハードルを下げつつ、規制された投資ルートを用意し、米国や香港などすでに動き出した市場に、日本が暗号金融で追いつくチャンスとなる。
短期の市場インパクト:価格・流動性・取引熱
ETF認可の報は、短期的に市場のムードを一気に高める可能性がある。政策実施後の6〜12カ月で、主要暗号資産の価格と市場の流動性はともに大きく改善すると見込まれる。
米国の事例を参照すると、2024年1月に米SECが初めてビットコイン現物ETFを承認した時点のビットコイン価格は約4万4,000ドルで、その後1年強で2025年10月には約12万6,000ドル付近の史上高値まで上昇し、騰落率は約200%に達した。日本でも同様の楽観シナリオが起きると仮定すると、例えば次のような水準が想定される。
- ビットコイン(BTC):ETF上場から半年で 50%〜100% の上昇余地
- イーサリアム(ETH):30%〜60% の上昇
- リップル(XRP):日本投資家の嗜好の高さから、60% 超の上昇もあり得る
流動性も同様に高まる見込みだ。米国では初のビットコインETF上場初日に約46億ドルの出来高となり、投資家の参加の熱気を示した。香港は2024年4月にアジア初の現物BTC・ETH ETFを上場させたが、市場規模は小さく、初日出来高は約8,700万香港ドルにとどまり、「反応は控えめだが平日比では明らかに出来高増」と評された。総じていえば、日本でもETF上場初期には取引の膨らみが期待され、楽観ケースでは初月の日平均出来高が現在比で数百億円規模の増加もあり得る。
シナリオ別の想定
- 中立シナリオ:ETF導入初期に、ビットコインは 20%〜30%、ETH は 10%〜20%、XRP はおおむね 30% 程度上昇し、日次取引高は現在水準から数十ポイント程度改善する可能性がある。
- 悲観シナリオ:材料が上場前に織り込み済みになるか、世界的な相場の冷え込みで、価格の上昇が限定的となり、「材料出尽くし」型の一時的な調整に終わる場合――ビットコインは 10% 未満、ETH・XRP は反応薄く、一時高進してから押し戻される可能性がある。それでも、ETFという規制された投資ルートがあることで市場の深さと流動性は改善し、bid-askスプレッドの縮小や取引のしやすさの向上が期待される。
付け加えると、日本ではXRPへの人気が高く、現状でもXRPの円貨買いが中心となっており、年間の法貨入金額は数百億ドル規模と推計されている。したがって、ETFがXRPを組み入れた場合、XRPの需要増と価格の伸びは世界平均を上回り、短期的に日本市場の目玉の一つになり得る。
取引量と参加度
減税とETFの登場は、取引規模の拡大と新規投資家の参加を大きく後押しするとみられる。税制優遇が取引意欲を刺激した例は過去にもある。2012年に日本が外為証拠金取引を申告分離課税に変更したあと、取引量は10年で約10倍に拡大した。
暗号資産市場でも同様の盛り上がりが想定される。
- 楽観見通し:半年〜1年で国内の暗号資産月間取引高が現状比 50%〜100% 増となり、数十兆円規模に達する可能性がある。3〜5年では、取引量がオーダー単位で跳ね上がることもあり得る。
- 資産に占める割合:日本投資家が持つ暗号資産の時価総額は2025年に約5兆円の高みを記録したが、家計金融資産の 0.3% に過ぎない。減税とETFによる信頼の醸成があれば、数年で 1% 超まで引き上がり、新規流入は約 15〜25 兆円(約1,000〜1,700億ドル)規模となる可能性がある。
- 口座数:2025年時点で、国内の暗号資産取引口座は約1,320万とされ、証券口座保有者の約3分の1程度。ETFにより従来の証券投資家が多数流入し、楽観ケースでは3年で暗号口座数が2,500万超へ倍増する可能性がある。中立シナリオでも、口座数の年間増加率が 10%〜20% であれば、5年後には2,000万を突破する見込みだ。
市場反応の比較(米国・香港・日本の想定)
| 地域/市場 | ETFの開始時期 | 初期の市場反応(価格・取引量) |
|---|---|---|
| 米国 | 2024年、現物ビットコインETFを初承認 | ビットコインは1年強で約200%上昇;初のビットコインETF上場初日の出来高は約46億ドル。 |
| 香港 | 2024年4月、現物BTC/ETH ETFを初上場 | 初日総出来高は約8,700万香港ドル(約1,100万ドル相当)、反応は比較的控えめ。 |
| 日本(想定) | 2028年、現物暗号資産ETFの開始を計画 | 楽観シナリオではビットコインが半年で50%〜100%上昇;初月の日平均取引高は現状比で数百億円増も期待。 |
表:米国・香港の暗号資産ETF市場の初期パフォーマンスと、日本における2028年想定の比較。
中長期の見通し:市場規模と投資エコシステム
3〜5年のスパンで見ると、日本が暗号資産ETFの解禁と減税を同時に進めれば、政策の恩恵で市場の重心が上昇し、規模が拡大する。
楽観シナリオ
機関資金の本格流入に伴い、ビットコインは5年で現在水準から 2〜3 倍、ETH は 1.5〜2 倍の伸びが期待できる。XRPは日本市場ならではの後押しを受け、世界の主要暗号資産の一角に入り、価格が数倍になる可能性もある。
米国では、ビットコインETFに伴う継続的な需要により、ビットコインETFの純資産総額が2年弱で約1,220億ドルに達し、ビットコイン時価総額の約7%を占めるに至った。日本の経済規模は米国の約3分の1で家計貯蓄も厚く、政策が順調に進めば、数年で日本関連ETFの運用規模は数兆円(数百億ドル規模)に達し、市場に持続的な買いを供給する可能性がある。その時点では流動性は大きく改善し、大口の出入りによる価格への衝撃は弱まり、BTC/ETH の取引深度は高まり、ボラティリティは相対的に低下する。また、ETFには継続的な申込・換金メカニズムがあるため、現物価格と基準価額は密接に連動し、グレイスケールのビットコイン信託で長くみられた割引・プレミアムの解消が期待される。
中立シナリオ
市場規模は同様に拡大するが、伸び率は穏やかになる。ビットコインは5年で現在の 1.5 倍前後に堅調に上昇、ETH はおおむね 50% 上昇、XRP は実用の進展に伴い 1〜2 倍程度の上昇が想定される。ETFの総規模は数千億円水準となり、日本暗号資産時価総額の 5%〜10% 程度を占める可能性がある。2020年代初頭と比べれば流動性は明らかに高まり、伝統的な証券ルートの参入とETFの普及で、ETFなしの時代と比べ取引量は数倍に拡大する。もっとも、日本市場の規模は米国より小さく、同時期の時価総額シェアは米国市場を大きく下回ったままとなる。
悲観シナリオ
グローバルなマクロや規制環境が不安定に揺れれば、暗号資産の長期上昇は限られ、インフレをわずかに上回る程度にとどまる可能性がある。ビットコインは3〜5年後でも上場時比で 20%〜50% の上昇にとどまり、ETH・XRP の伸びはさらに小さいか横ばいに近い。ETF市場の成長も遅れ、規模は数百億円程度で、全体に占める割合は小さい。この場合、流動性の改善は限定的だが、ETFは少なくとも規制に沿った投資チャネルを提供する。相場が冷え込んでも、ETF取引は最低限の流動性を維持でき、これまでのように個人投資家が一斉に手を引く事態は起きにくい。
従来資産への影響
暗号資産の魅力が高まると、株・債券などから資金が流れるか。分析では全体への影響は限定的とされるが、状況によっては一部で資金のシフトが起こり得る。
- 楽観ケース:暗号資産が家計資産に占める割合が短期で 1% 超になれば、増加分の一部は他資産からの再配分となり得る。若年層が投信の積立や預金を減らし、その分を暗号ETFに回すといった動きが想定される。すでに、近年の株高を受けて、リスクを取る投資家が株の利益を暗号に振り向ける例が出ている。規制緩和後は、こうした資産間のローテーションがより一般的になり得る。ただし、暗号市場の規模はまだ株に比べて小さく、兆円単位の流入が実現したとしても、日本の株・債券の数百万億円規模と比べれば影響は局所的だ。
- 中立ケース:新規資金は主に貯蓄からで、既存の株・債券の売却ではない。預金(家計金融資産の 50% 超を占める)を少し減らし、その一部を暗号ETFに振り向けてリターンを上げる、といった形だ。眠っている資金が動く一方で、既存の株・債券への打撃は小さい。
- 悲観ケース:暗号相場が振るわないと、暗号から株・債券へ資金が戻る動きもあり得る。
以上から、暗号ETFは従来型投資の「壊し屋」ではなく、資産配分の補完と新たな選択肢になり得ると考えられる。日本証券業協会の幹部も、暗号を「代替投資」として位置づけ、従来資産の直接的な代わりにはしないべきだとの認識を示している。そのため、多くの伝統的金融機関はこの変化を受け入れ、ETFの組成や関連サービスの提供で市場成長を分かち合う動きを取っている。
グローバルな市場構図
日本の動きは国外にも波及し得る。国内でETFが認可されれば、これまで海外経由で暗号に投資してきた日本資金の一部が国内に戻り、資金フローの地図が変わる。国内に適法な商品が乏しかったため、米国のグレイスケール信託、カナダのETF、香港市場などを経由してビットコイン等を保有してきた機関や富裕層は少なくない。低税率で自国通貨建てのETFが日本で登場すれば、こうした資金は東証上場のETFへ移す動機が強まる。楽観的に見れば、数千億円規模の海外保有が徐々に国内にシフトする可能性がある。
また、日本の参入はアジア域内での競争と協調を生む。香港は2024年に小口向けの現物BTC・ETH ETFを先行して導入したが、地盤は限定的で、初日出来高は約8,700万香港ドルにとどまり、反応は総じて平凡だった。日本は経済規模と貯蓄が格段に大きく、国内ニーズが活性化すれば、東京はアジア最大級の暗号投資市場の一つに成長し得る。いずれは東証の暗号ETFの日次出来高がニューヨーク証券取引所やナスダックと同程度の水準に達し、アジアの価格形成への影響力が高まる可能性もある。この楽観シナリオでは、アジアの暗号市場の重心の一部が香港・シンガポールから東京へ移る。香港・シンガポールも手をこまねいているわけではなく、小口取引や商品規制のさらなる緩和で資金の流出・流入を引き留める動きも考えられる。総合すると、日本の参入はアジアの競争のハードルを引き上げ、業界の規範化と商品革新を促し、他地域へのデモ効果も持ち得る。
主な参加機関:国内証券と外資の競争
日本で暗号ETF市場が動き出すには、国内外の金融機関の積極的な参加が欠かせない。現時点の動きを見る限り、各社は機会を捉えようと準備を進めている。
野村ホールディングス(Nomura)
国内最大手の証券グループとして、野村は近年デジタル資産に力を入れており、子会社のレーザーデジタル(Laser Digital)のほか、暗号資産カストディのKomainuにも関与し、技術と人材を蓄積している。報道では、野村アセットマネジメントが暗号ETFの開発を進めており、初期の認可組の一つになる見込みだ。伝統的な証券顧客と強力な販売網を持つ野村のETFは、一度上場すればシェアを素早く伸ばせる可能性があり、想定される商品はビットコイン・イーサリアム等の単一資産ETFや、アクティブ運用型の暗号ファンドなどだ。規制当局とのつながりも深く、ルールづくりのアドバイザー的役割を担う可能性もある。
シェア見通し:楽観的に見て、最初の2年で野村系ETFが国内AUMの 30% 超を占める可能性がある。ブランドへの信頼と積極的なマーケティングで、保守的な投資家が初めて暗号に触れる受け皿にもなり得る。
SBIホールディングス(SBI Holdings)
国内でいち早く暗号資産に本格参入した大手フィンテック系金融グループの一つ。SBIは国内大手暗号取引所のSBI VCトレードを運営するほか、リップル(XRPの事業主体)の主要株主として、XRPの国内普及を推進してきた。SBIのアセットマネジメント部門は2020年から暗号ETFの組成意欲を示しており、2025年8月には**「ビットコイン+リップル」の2資産ETFや「金+暗号」ETF**の申請を明らかにした。準備は極めて進んでおり、斬新な商品构想を先に出したといえる。自社のコールドウォレット・カストディなどの強みを活かせば、ETFの運営主体としても十分に対応可能だ。
シェア:SBI証券はネット証券でトップクラスのシェアを持ち、すでにSBI経由で暗号資産を取引している多数のアクティブ顧客を抱える。SBIが組成するETF(とくに組み合わせ型など独自色の強いもの)はこうしたユーザーにアピールし、XRPテーマが国内投資家に与える訴求力とあわせ、20%〜30% のシェアを占める可能性がある。規制との対話も一貫して活発で、暗号の税制・規制改善を繰り返し訴えてきた。今回の税制改正とETF「開門」は、その政策提言が形になったものといえる。
楽天グループ(Rakuten)
国内では、ECと金融を統合した楽天の名前は広く知られている。楽天証券は主要ネット証券の一つであり、「楽天ウォレット」として暗号取引所も運営し、数十万規模の暗号ユーザーを持つ。強みは、EC会員や銀行顧客などに広がるエコシステムと、ネット事業の運営力にある。
ETF市場では、楽天単体でETFファンドを組成する可能性は高くない(運用面では野村・SBIに一歩及ばない)が、販売チャネルおよび流通市場としての役割は大きくなりそうだ。楽天証券の商品ラインナップに暗号ETFを加え、ポイント還元や低コストで若年層にアピールする形が想定される。外部の運用会社と組み、楽天エコシステムのポイントやECデータに連動するブロックチェーン指数型ETFなど、独自商品を出す可能性もある。
シェア:楽観的に見て、小口・積立層を中心にリテール取引の約 15% を占める可能性がある。
マネックスグループ
中堅のネット証券だが、子会社のコインチェック(暗号取引所)の買収で業界内に地歩を築いた。松本大社長は暗号・ブロックチェーンの積極的な論客で、日本をデジタル資産のハブにすべきと主張している。マネックス証券(伝統的な証券)とコインチェック(暗号)の両方を持ち、今後は両者を結びつける――例えばマネックス証券のチャネルでコインチェック関連指数に連動するETFを販売したり、コインチェックがETFの流動性供給を支える――といった形が想定される。
規模は相対的に小さいが、機動力を活かし、機関・富裕層向けのオーダーメード商品や、アクティブ型暗号ETF・メタバーステーマETFなどで差別化を図る可能性がある。
シェア見通し:マネックスが組成するETFの初期シェアは 10% 未満にとどまる可能性があるが、コインチェックの約180万ユーザーを導線にできれば、ETFの出来高には一定の存在感が出る可能性がある。
松井証券(Matsui)
伝統的な証券会社で、株の信用取引で知られる。松井自体には目立った自前の暗号ビジネスはないが、顧客はアクティブなトレーダーが多く、新しい投資機会に敏感だ。暗号ETFが解禁されれば、松井証券は取引窓口をいち早く開き、顧客が自社プラットフォームで暗号ETFを売買できるようにして、資金流出を防ぐとみられる。ただし、自社でETFを組成する可能性は低く、チャネル役や、大手運用会社のETFの販売代行に回る可能性が高い。
ポジション:ETF市場に占める割合は小さく、おおむね 5% 前後とみられる。一方で、顧客の取引頻度が高いため、プラットフォーム上のETFの回転率や日中の出来高は相対的に高くなり、市場の流動性に寄与する可能性がある。全体として、松井はこの変化では「フォロワー」に近く、市場の成長を分かちつつも、イノベーションを主導する立場にはなりにくい。
ブラックロック・ジャパン(BlackRock Japan)
世界最大の運用会社ブラックロックの日本法人。ブラックロックは2023年に米国でビットコイン現物ETFの申請の口火を切り、最終的に承認され、業界に衝撃を与えた。日本の法制度が認めれば、日本市場に参加しない選択は考えにくい。旗艦ETFブランドのiシェアーズで、東京に円建てのビットコインETFを上場させ、続いてイーサリアム等を出す流れが想定される。強みはグローバルな実績とブランド、そして日本の機関投資家との関係の深さにある。日本の年金や公的資金の運用の相当部分もブラックロックが担っている。ブラックロック・ジャパンが暗号ETFを組成すれば、有力な競争者となり、米国と同様の「低コスト」戦略(例:運用報酬約0.2%)でコスト感度の高い機関マネーを引き付け得る。円・ドル両建ての受益証券を用意し、海外投資家が東京市場経由で参加しやすくする可能性もある。
シェア:楽観的に見て、機関顧客では大型銀行・保険会社などが国際的に知られたブラックロックのETFを選び、市場AUMの約 20% を占める可能性がある。リテールでは地元証券との販売提携が中心となり、ブランドの直接的な訴求力は限定的だが、高品質な商品として一定の吸引力はある。
規制と競争の整理
全体として、FSAは主要金融機関の暗号ETF市場への参加を歓迎し、透明性と健全性の向上を期待している。野村・SBIなどの国内勢はすでに政策形成の過程で一定の役割を果たしており、新ルールはおおむねその期待に沿っている。外資(ブラックロックなど)の参入は国際的なベストプラクティスをもたらし、日本市場の競争力を高める。規制当局は、十分なリスク管理・運営能力を持つ機関だけがETFを組成できるよう、厳格な参入審査を実施する可能性が高い。野村・SBIのような総合力のある証券グループがまず認可を受け、続いてブラックロックなど外資が加わるが、国内ETFの稼働を一定程度見てから、という段取りもあり得る。野村やSBIが海外の大手運用会社と合资でETFを組成するなど、業界内で連携が生まれる可能性も排除できない。
機会とリスク:日本的な投資生態への影響
以上を踏まえると、日本が仮想通貨ETFを解禁し税制改正を実施すれば、投資のあり方を組み替え、多くの機会をもたらす一方で、一定のリスクも伴う。冷静に捉える必要がある。
投資生態のポジティブな変化
20% の低税率と規制に沿ったETFチャネルにより、暗号資産は「周辺」から「メイン」に近づき、日本的なポートフォリオの選択肢の一つになり得る。これまで預金や低リターン資産を中心としてきた家計にとって、ハイリスク・ハイリターンの新たなオプションは、資産の多様化とリターン改善に寄与する。投資家は金や REIT と同様に、資産の一部(例えば 5% 以内)を暗号ETFに振り向けて超過リターンを狙いつつ、リスクを分散できる。
機関面では、年金・保険などの大口資金がようやく規制の枠内でデジタル資産に参加する経路を得る。ほんの少しの割合を振り向けるだけでも、市場にとっては大きな追加需要となり得る。日本の資本市場全体が活気づき、長く眠っていた巨額の貯蓄の一部が新分野に流れ込む可能性がある。加えて、東京の市場としての地位が上がり、アジアひいては世界の注目を集め、関連産業や雇用の拡大にもつながり得る。この改革は、次の金融イノベーションの波において、日本に有利なポジションを確保する役割を持つ。
新たな機会
市場が広く深くなれば、さまざまな新商品が生まれ得る。現物暗号ETFに加え、鉱業・取引所等の株式に投資する暗号関連株ETFや、Web3・メタバーステーマのETFが登場し、従来産業とブロックチェーンをつなぐ可能性がある。より広いテック・金融セクターにも恩恵が及ぶ。また、日本は国際的な暗号規制の議論で発言力を増し、業界標準の策定に加われる可能性がある。個人投資家にとっては、地元の証券口座でETFを買えば、秘密鍵の自己管理や取引相手リスクを気にせず、身近な方法で新興資産に触れられるというメリットがある。
注意すべきリスク
市場の変動と操作:暗号市場に内在する高いボラティリティや操作リスクは、ETFがあってもなくならない。価格は依然として世界中の数百の取引所によって主に決まっており、規制が甘く、出来高の水増しや操作が存在する取引所も少なくない。大口資金による意図的な価格操作があれば、ETF投資家も巻き込まれる。米国でSECが当初ビットコインETFを認めなかった主な理由の一つも、市場操作への懸念だった。日本のFSAも、取引所やETF運営者に不正・操作の監視体制を求めると思われるが、完全に防ぐのは容易ではない。
流動性リスク:相場が急変した場合、ETFの運営は流動性リスクに直面する。ETFは指定参加者(AP)が一次・二次市場でアービトラージすることで基準価額との連動を保っているが、極端な下落時にAPが十分な現物をタイムリーに換金・売却できなければ、ETF価格が一時的に基準から乖離し、流動性が枯渇する事態もあり得る。また、個人投資家がETFに集中して取引することで、短期的な値動きが増幅される――上昇時には押し上げ、下落時には売りを増幅し、変動をいっそう大きくする。規制当局と組成会社には、サーキットブレーカーや流動性供給の手配など、混乱を防ぐための備えが求められる。
商品設計・技術面の課題
新しい仕組みである暗号ETFは、日本で導入する過程で運用面の課題にも直面し得る。
- カストディの安全:ETFが預かるデジタル資産の安全は極めて重要で、カストディの過失やハッキングでファンド資産が損なわれる事態は避けなければならない。
- 24時間取引と取引所の休場:暗号市場は24時間・年中無休で取引される一方、東証には休場日がある。休場中にも価格が大きく動く可能性があり、翌日の参考価格をどう算出するか、夜間の大きなギャップにどう対処するかは、ETF運営にとって大きな課題だ。対応を誤れば、投資家トラブルや信頼の毀損につながる。
- コストとトラッキングエラー:運用報酬やインデックスとの乖離(トラッキングエラー)も抑える必要がある。コストが高すぎたり、指数から外れたパフォーマンスが続いたりすれば、投資家の利益と商品の評判を損なう。組成側は設計の最適化とコスト削減、情報の透明性を通じて、投資家の信頼を勝ち取る必要がある。
投資家行動にまつわるリスク
手軽なETFと低税率により、これまで様子見だった一般投資家が大量に流入し、なかにはリスク許容度が高くない人も含まれる。経験の浅い個人が暗号ETFを「損しない」機会と捉え、好景気の高揚感で過大な資金を投じ、相場が反転した際に大きな損失を被る可能性がある。日本証券業協会の幹部も、暗号資産の価格変動は激しいため、メインの資産配分にはすべきでないと注意を促している。新しい投資ブームのなかで、この点を軽視する人も出てこよう。その結果、世論や政治からの圧力が高まり、規制当局が介入せざるを得なくなる可能性もある。悲観シナリオでは、個人の投資上限設定や適格性要件の引き上げなど、規制の一段の強化があり得り、それが市場の発展を阻む要因にもなり得る。したがって、業界と規制の双方が投資家教育を強化し、理性的な投資を促し、暗号資産のリスク・リターン特性を正しく理解してもらう責任がある。
政策の不確実性
現時点では日本の政策の方向性は総じて暗号に好意的だが、規制環境の変化は市場の頭上に突きつけられた「ダモクレスの剣」だ。暗号市場で想定外の事態が起これば、政府が支持の度合いを変更したり、後退させたりする可能性がある。大規模な取引所の破綻や重大な詐欺が社会的不安を招けば、「20% の優遇税率が投機を助長している」という批判が起こり、税率の再引き上げや規制強化が議論され得る。また、米国など主要国が今後、暗号規制を強化すれば、日本もそれに歩調を合わせ、国内市場の自由度が制約される可能性がある。いずれにせよ、政策の恩恵を享受する一方で、関係者は油断せず、リスクへの対応策を整え、システミック・リスクが現実のものにならないよう防ぐ必要がある。市場が健全に機能して初めて、改革の成果は長期的に定着する。
結論
日本が仮想通貨ETFの解禁と暗号に関する税制改正を順調に実現すれば、金融市場に新しい息吹が入る。この変化により、投資のハードルが下がり、参加者が増え、暗号資産が「少数の投機」から「多数の投資」へと移行し、日本がアジアの暗号金融の拠点の一つに成長する道が開かれる。
最も理想的には、個人投資家にはインフレヘッジや高リターン追求のための新たなツールが、機関投資家には新興資産へ配分するチャネルが生まれ、資本市場の国際化が進む。東京はデジタル資産の時代に、一定の地位を占め、富の拡大と金融イノベーションの機会をもたらし得る。
他方で、潜在的なリスクを軽視することはできない。市場が成熟するには時間がかかり、規制当局と市場参加者が協力して、健全で秩序ある投資環境をつくることが必要だ。投資家にとって機会は眼前にあるが、理性的であり、リスクを慎重に管理して初めて、この歴史的な転換がもたらす長期の果実を共有できる。日本が打つこの一手は、世界の資本市場が共に注視し、期待するに値するだろう。